歌

人前で歌を歌うのは少し恥ずかしい。誰しもがそうであろう。人前で歌うには心にある種の思い切りや開き直りが必要になるのだ。
歌が苦手な場合は特にそうだ。歌が下手なのはゴルフや書道が下手であることよりも数倍恥ずかしい。
これは一体どうしてなのだろうか。

どこかスタジオに入って練習をする場合でも、楽器の練習を他人に聴かれることは何でもないが、歌となるとあまり聴かれたくないという人が多いのではないか。
大声でノリノリで練習している時にふと気がつくと間近に人がいるととても恥ずかしい。

それだけ歌というのは自分の内面を表に出す行為だからだと思う。自信のないまま歌うのは身なりを整えずに外出するのと同じで、自分の恥部をさらけ出すのにどこか似た行為になってしまうのだ。

女性は不明な相手からの電話に出るとき、よくよそ行きの声を出すと言われる。男性に比べ女性の方が社会的にも内面をさらけ出すことがより恥ずかしいことが関係しているように思う。えてして女性の方が身支度にも時間がかかる。
男性も実はちゃんとよそ行きの声を使い分けている。突然上司や大切な人から電話がかかってくると声のトーンがあからさまに変わる人が多い。

逆に言うとそれだけ自分の気持ちをストレートに伝えられる稀な行為が「歌」だということになる。
歌詞や言葉だけでは伝えられない感情や美、人間性や哲学まで表現することができるのだ。

歌に磨きをかけて、自分の気持ちや体験を他の人と共有、共感しよう。表面的に歌が上手いことよりもそちらの方が断然意義あることだと思う。
そして人前で楽器を弾く場合でも、自分の声で歌ったり叫んだりしているつもりで演奏してみよう。きっとそれまでより伝わる素晴らしいものになるだろう。

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